ハコブくんの世界に住む人々を設計する
LOG171HRI2026/4/25

ハコブくんの世界に住む人々を設計する

ハコブくんは病院で働くロボット。でも、ロボットは単体では物語にならない。誰と接するか、そこにどんな人がいるか——住人を設計してはじめて、ハコブくんの存在意義が立ち上がる。

そのことを、実際に手を動かしながら理解した。

既存キャラから読み取ること

新しいキャラを作る前に、すでにいる5人をよく見た。高杉綾(看護師)、高杉健二(医師)、寺島由美(看護師・丸眼鏡)、小芝優介(研修医)、大城愛名(看護師)。

この5人には共通した画調がある。写実寄りの劇画タッチ、ハーフトーンの濃淡、デフォルメは控えめ。キャラの個性は、顔の作りではなく「髪型・眼鏡・姿勢・小物」で分けている。表情は微細で、研修医の小芝のような緊張や汗まで拾う。

つまりこの世界は、服装と姿勢で物語を語るフォーマットで動いている。新しいキャラも同じ作法で作る必要があった。

患者を年齢層で考える

ハコブくんと接するのは医療スタッフだけではない。患者こそが、ロボットに対する人間側の戸惑いや受容を体現する存在になる。

年齢層を5段階に分けて、各層に男女1人ずつ、合計10案を考えた。

小児期(6〜10歳)は山田颯(7歳)と佐々木莉央(9歳)。颯は病衣にスリッパ、ぬいぐるみを抱えた好奇心旺盛な男の子。莉央はカーディガンを羽織った少女で、ベッド脇にスケッチブックを置いている。思春期(13〜17歳)は藤田蓮(15歳)と神谷ひかり(17歳)。蓮はジャージにイヤホン、無口で距離感がある思春期男子。ひかりはスマホを片手に、制服かパーカー。

働き盛りの30〜45歳には中村拓也(38歳・会社員)と林さくら(34歳・育児中の母親)。中高年の55〜65歳には森田茂(62歳)と渡辺久美子(58歳)。高齢期は田中武雄(80歳)と吉村ハル(78歳)。

先に作画したのは、拓也・さくら・茂・久美子と、拓也の妻の5人。病院の患者層として最頻出の世代から固める、という判断。

拓也の奥さんを、3方向から考える

中村拓也

中村拓也の設定は「過労・生活習慣病の入り口」「家族のことが気になる」。この物語フックは、家族側の人物がいないと画として成立しない。

奥さん像を3パターン提案した。

中村 千夏

Aはしっかり者の美和(36歳)。共働きで家計と子育てを回している現実派。診察に同席して、「先生、はっきり言ってください」と医師に踏み込める強さを持つ。高杉医師との対等な会話が画になる。

Bは寄り添い型の千夏(35歳)。ロングカーディガンにハーフアップ、ハンカチを握りしめている。「大丈夫よ」と言いながら自分が一番不安な顔。廊下で看護師に小声で相談するシーンに向く。

Cは明るくカバーする真希(37歳)。デニムにオーバーサイズシャツ、ショートボブ。重い話を笑いに変える役。でも側面カットだけ表情を変えると、本音が覗く演出ができる。

選んだのはB、千夏。拓也の「家族のことが気になる」という内面に対して、千夏の「私がもっと早く気づいていれば」という後悔が呼応する。大城看護師との廊下シーンが自然に生まれるし、医療スタッフのケアの幅を引き出せる組み合わせだった。

技師は誰が来るか、で物語の温度が変わる

ハコブくんは自分ではメンテできない。誰が呼ばれてくるかで、シーンの空気がまるで違う。

倉田茂(54歳)は産業ロボット出身のベテラン。濃紺ワークジャケット、白髪混じり、無精髭。ハコブくんを「こいつ」と呼ぶ。白衣の医師と並ぶと、「治す人 vs 直す人」という対比が自然に立つ。

槙原颯太(28歳)は倉田の後輩。ハコブくんへの愛着が強すぎて、つい擬人化して話してしまう。「すみません、こいつ今日ちょっと機嫌悪くて」という台詞が出てしまうタイプ。小芝研修医と同世代なので、青年同士の対話シーンが生まれやすい。

白石莉子(36歳)はプロダクト開発リード兼カスタマーサクセス。「なぜこのUXにしたか」を語れる唯一の人物で、月1〜2回の定期巡回で来る。

倉田一人だと「正解を持っている人」で物語が止まってしまう。槙原という未熟な弟子がいることで、倉田が背中で教える絵や、槙原が失敗してハコブくんを止めてしまう絵が描ける。ドラマが動く。白石は病院上層部との会議やメディア対応の回で、世界観を外に語る特殊役として後から投入できる。

実際に作画したのは槙原と白石の2人。倉田は次のキューに残した。

槙原に眼鏡を乗せる

槙原 颯太

槙原颯太を眼鏡キャラにしたい

このリクエストを受けてまず考えたのは、寺島看護師との差別化だった。

寺島は丸型・細フレームで「知的で柔らかい」印象。同じ印象の眼鏡を槙原に乗せると、画面で混乱する。形状を別軸に振る必要があった。

選んだのは黒縁ウェリントン(やや大きめ)。太めの黒縁は「画面を見続けてきた人の道具」という説得力がある。顔より少し大きめのサイズ感は、緊張したときにフレームの存在感が増す演出につながる。そして黒縁の鋭さと、本人の柔らかい雰囲気のギャップが「外見は硬派だが中身は気弱」を一目で語る。

既存キャラ群の眼鏡を並べると、寺島(丸)・槙原(ウェリントン)・白石(スクエア)と3人で別形状になった。眼鏡のフレーム形状だけで差別化できている状態。

眼鏡がつくと、ブリッジを押し上げるシグネチャー動作が解放される。これを槙原の癖として固定すると、読者がキャラを覚えやすくなる。集中時には眼鏡を頭に上げて素の目で部品を覗き込む——プロモードへの切り替え演出も使える。

槙原の「中身」を埋める

3面図の小物には、全部意味がある。それを言語化するために、槙原のエンジニアとしての設定を丁寧に肉付けした。

役職はカスタマーサクセス本部フィールドエンジニアリング部、入社4年目。直属上司は倉田茂チーフエンジニア。まだ単独で全部できる段階ではなく、重大トラブルは倉田に応援を頼む立場。その「経験を積んでいる最中」の緊張感がキャラに乗る。

倉田との分業は技術領域で分かれている。倉田はモーターや駆動系などの機構部が主戦場、槙原はセンサーのキャリブレーション・ファームウェア更新・ログ解析が主担当。緊急対応の一次窓口は槙原で、手に負えなければ倉田を呼ぶ——「呼ばれて最初に来るのは槙原、重大案件は倉田」という構造だけでドラマが回る。

仕事中の癖も決めた。現場に着いたらまずログを見る。ハコブくんに触る前にiPadで診断ダッシュボードを開く。医師が「症状を聞く前にカルテを見る」のと同じ動作。養生テープは不具合箇所のマーキングと倉田への申し送り用で、常にポケットに入っている。そして「ハコブくん」と固有名詞で呼ぶ癖が抜けない。倉田は「こいつ」、白石は「200番台」と呼ぶ。この呼称の差だけでも、3人のキャラの距離感が伝わる。

小物の意味が全部紐づいた。iPadは診断ダッシュボードを開く道具。養生テープは応急処置と申し送りの象徴。社員証ストラップは病院のセキュリティゲートを毎日ピッと通るため。胸ポケットの細いペンは、紙の作業伝票にサインするため——病院は意外と紙文化が残っている。

白石に「野暮ったさ」を足す

白石 莉子

白石莉子はもっとエンジニアっぽく少し野暮ったさがあるといいかも

最初の提案で白石を「機能的だが洗練された」と描いたのは、やりすぎだった。プロ感がきれいすぎると、エンジニアの生活感が消える。

「キレイめプロ」から「現場でコードを書き続けてきた人の生活感」へ。変更点を全部言語化して振り直した。

服装は、テックジャケットは維持したまま少し大きめのサイズ感にして肩のラインを落とす。インナーは白TをやめてくすんだグレーのロンT——あるいは社内ロゴが入った、ちょっとよれたTシャツ。パンツはスリムからゆとりのあるチノパンに変えて、膝に皺を入れる。スニーカーは履き込んで汚れたグレーで、つま先がうっすら黒ずむ。

髪型はローポニーを維持しながら、後れ毛とほつれ毛を多めに。前髪は伸ばしっぱなしで目にかかりそうな長さ。結び目はシンプルな黒ゴム——おしゃれなヘアアクセではなく、どこにでも売っているやつ。

眼鏡は「手元作業時のみ」をやめて常時着用に変更した。黒縁スクエア、太め、レンズはやや厚い(度がきつい印象)。これで寺島(丸)・槙原(ウェリントン)・白石(スクエア)の3人で眼鏡の形状が全部違う状態になった。

小物はMacBookに大量のステッカー、タンブラーは無骨なサーモタイプ(カフェ系の細身ボトルではなく)、斜めがけの機材バッグは見た目がくたびれている。社員証ストラップは社内イベントの記念品っぽい派手な色——プロ然としすぎない人間味を出すために。

Geminiに投入したプロンプトをそのまま残しておく。

A character design sheet showing three views (front, back, side) 
of a 36-year-old Japanese female robotics product engineer. 
Manga screentone style, monochrome, halftone dot shading, 
detailed line art, seinen manga aesthetic, full body standing pose, 
white background, no text labels.

Character details:
- Asian woman, 36, average build, slightly tired around the eyes
- Black hair in a low ponytail with loose strands and messy bangs 
  partially covering eyes
- Black square-frame glasses with thick rims, worn full-time, 
  slightly thick lenses
- Slightly oversized navy tech jacket with dropped shoulders
- Worn-in gray long-sleeve T-shirt or faded company T-shirt underneath, 
  collar slightly stretched
- Relaxed-fit chino pants with natural creases
- Scuffed gray low-cut sneakers
- Cross-body utility bag pulling one shoulder down slightly
- Holding a MacBook covered in stickers in one arm, 
  thermos tumbler in the other hand
- Lanyard ID badge around neck
- Small multitool clipped to chest pocket
- Posture: upright but slightly weighed down by bag, 
  side view shows arms crossed observing
- Expression: calm, intelligent, slightly tired, 
  understated rather than polished

Composition: three full-body views in a row 
(front, back, three-quarter side), 
matching aspect ratio and screentone density of reference images.

リファレンス画像は3層に分けた。構図のリファレンスに高杉看護師の3面図(同年代女性・立ち姿)、トーン濃度のリファレンスに大城看護師(服のハーフトーン処理が近い)、そして「野暮ったさ」のリファレンスに実際のプログラマーの写真を1枚混ぜた——Geminiがファッション寄りの女性像に引っ張られるのを防ぐために。

出来上がった3面図は、最初の提案より明らかに「普段の現場で纏う服装」になっていた。ジャケットは肩が落ち、機材バッグの重みで片方が下がっている。MacBookにはステッカーだらけ。タンブラーは野暮ったい。「キレイめ」と「野暮ったさ」のあいだに、プロのリアリティがある。

作画したキャラ一覧

林 さくら
森田 茂
渡辺 久美子

医療スタッフ5人(既存):高杉綾、高杉健二、寺島由美、小芝優介、大城愛名。

患者・家族5人(新規):中村拓也(38歳・会社員)、中村千夏(35歳・拓也の妻)、林さくら(34歳・育児中の母親)、森田茂(62歳・定年前後)、渡辺久美子(58歳・パート勤務)。

メンテナンス技師2人(新規):槙原颯太(28歳・若手フィールドエンジニア・眼鏡)、白石莉子(36歳・プロダクトリードエンジニア・野暮ったさ強化版)。

合計12人で、ハコブくんの世界が動き出せる状態になった。

未制作のキャラリスト

小児期は山田颯(7歳・男児)と佐々木莉央(9歳・女児)。思春期は藤田蓮(15歳・中学生)と神谷ひかり(17歳・高校生)。高齢期は田中武雄(80歳)と吉村ハル(78歳)。

メンテナンス技師の倉田茂(54歳・ベテラン)は、濃紺ワークジャケット、無精髭、産業ロボット出身の職人。槙原の上司で、重大トラブル時の応援要請先。

拓也の妻の別案として、美和(36歳・しっかり者A案)と真希(37歳・明るくカバー型C案)も設計済み。千夏を採用したが、別シナリオで別の奥さんが必要になれば使える。

これら8人が揃えば、ハコブくんの世界に全年齢層・全関係性が入る。

気づいたこと

ひとつは、新キャラの設計は常に既存資産との関係で決まるということ。眼鏡ひとつ取っても、寺島(丸)がいるから槙原はウェリントンにする。白石が加わったからスクエアで3種になる。フォーマットの蓄積が制約になり、制約がキャラを立てる。

もうひとつは、服装と姿勢が物語を語るということ。拓也のネクタイを緩めた姿、千夏のハンカチを握りしめる手、槙原の眼鏡を押し上げる癖——これらは全部、3面図というフォーマットだからこそ読めるシグナル。顔で語る漫画ではなく、立ち姿全体で語る漫画だった。

そして、小物には全部意味を持たせること。意味を言語化できると、後から追加カットを描くときにブレない。意味のない小物を増やすより、意味のある小物を1個徹底する方が、キャラに厚みが出る。

ロボット単体では物語は生まれない。誰と接するかを設計してはじめて、ハコブくんの存在意義が立ち上がる。世界観の設計は装飾ではなく、仕様の一部だ。