1gの壁。mechArm 270が「言葉を持たない」とはどういうことか|HRIデザイン考察
LOG127HRI2026/4/4

1gの壁。mechArm 270が「言葉を持たない」とはどういうことか|HRIデザイン考察

ハコブくんの4コママンガを再開し、35話のプロットが動き始めた。

ツカムくんは、このプロジェクトに新しく登場したロボットアームのキャラクターだ。mechArm 270-Piをベースに、「言葉より動きで語る」をコンセプトに設計した。吹き出しは持たない。感情はアームの動きと、ベースに搭載した顔ディスプレイ(目のみ)で表現する。ハコブくんとは対照的な、無口な相棒として位置づけている。

そのツカムくんがコーヒーカップを掴もうとして、動けない。重さは501g。限界は500g。差は1g。——この話を4コマにするために、Geminiと格闘していた。

💡 Key Takeaway

マンガの制作プロセスで、ツカムくんの「言語を持たないキャラクター」としての設計がより深く固まった。「フキダシなしのカタカナ=ロボット間通信」という世界観ルールが生まれたのも今日だ。コマを作るたびに、ロボットUXの問いが出てきた。

ハコブくん第35話のテーマ:1gという数字の残酷さ

ツカムくんの実機(mechArm 270-Pi)のペイロード上限は250g、グリッパー込みの実効値になるとさらに下がる。プロジェクト的には「コーヒーカップを掴む」がデモのゴールなのに、コーヒーカップは重すぎる。

「精度より体験を優先する」と言ってきたが、物理の壁だけはどうにもならない。

その現実を笑いに変えて、でも設計者の諦念と前進も伝える——それが35話のテーマだった。

数字は500gと501gにした。1g、オーバー。

Gemとのやり取り

プロットをハコブくん制作パートナーのGemに渡して、各コマの画像生成プロンプトを作ってもらうところから始めた。「コマ1から順番に生成してください」という流れだ。

コマ1(2台が並ぶ引きの絵)の最初のバージョンは構図としては近かった。ただ、すぐに問題が出た。ツカムくんはデスクの上に設置されていて、ハコブくんは床にいる。ハコブくんの全高は1150mm、デスクは750mmくらいなので、ハコブくんの顔がデスクから上にはみ出る高さ関係になるはずだった。最初の絵はその関係が崩れていた。

スケールと配置を修正しながら、もう一つの問題も出てきた。ハコブくんの目に黒目が入っていた。 ハコブくんの顔デザインは黒目なしが仕様だ。三面図を添付して修正を指示した。

ツカムくんのスケールについても「1.5倍に拡大して」と指示したが、次のバージョンでも変わっていなかった。「以前の画像と比べて1.5倍に拡大していないので再度修正」と再指示した。

コマ1の調整を重ねるうちに、コーヒーカップは単独で別途生成する判断をした。「コーヒーカップだけにしてください」「影を入れて」——カップだけで2往復かかった。

コマ2(フルフルしている場面)に移ったところで、今度はグリッパーのデザインが崩れた。最初のバージョンでGeminiが出してきたのは多関節の複雑な指の形だった。実際のツカムくんのグリッパーはシンプルな2本指だ。「ハンドのデザインが違います!」と指示して三面図を再度添付した。

Gemは「申し訳ありません」と謝りながら、デザインシートと画像のハンド形状を参照して2本指グリッパーに修正した。ここでも「再度生成!」とプッシュが必要だった。

画像生成AIへの指示は、変えたい部分と変えたくない部分を同時に書かなければいけない。 変えたい部分だけ書くと、変えたくない部分が崩れる。1コマを固めるたびに、その法則を何度も踏んだ。これはUIのコンテキスト依存性とまったく同じ構造の問題だ。

ツカムくんの「言語」が決まった

制作で一番大きかったのは、世界観ルールの整理だ。

ツカムくんに表示される短いテキスト——「…重い」「ゴメン」「次、積み木でやってみる」——これらは何なのか、という問いが出てきた。

ツカムくんは要件定義書に「Silent(無口)」と書いた。吹き出しはない。でもディスプレイには文字が出る。それはセリフなのか、それとも何か別のものなのか。

フキダシなしのカタカナは、ロボット間の通信ログだ。

音声でも言語でもない。2台のロボットの間でやり取りされているデータが、たまたま欄外に表示されている。読者はそれを偶然覗き見している。

この定義を置いた瞬間、ツカムくんが「しゃべらないキャラクター」から「そもそも言葉を持たない存在」に変わった。

Silent、という原則の意味がようやく実装できた気がした。

コマ構成の変更点

プロット段階から、最終的な本編でいくつか変更が入った。

コマ2と3を縦2段から横並び2コマに変更した。ハコブくんが心配している顔と、ツカムくんが実際にフルフルしている場面を同時に見せる構成。因果ではなく同時性で読ませる。

コマ3はハコブくんのみの構成にして、説明的なセリフをここから外した。「ツカムくん……大丈夫? 無理、してない?」だけを置く。数字の説明はコマ4の地の文ボックスに移した。

コマ4のラスト、積み木への切り替えはなくなり、「ゴメン モテナカッタ」→「キット ツギハデキルヨ」という2台のやり取りで締めた。諦念より、関係性の温度で終わる話になった。

わかったこと

ロボットのキャラクター設計とマンガの制作プロセスは、思ったより構造が近い。

どちらも「何を見せて、何を見せないか」の選択が連続する。Geminiへの指示も、コマの構成も、ツカムくんの動作設計も——文脈を設計しているという点では同じだ。

1gの壁は、物理の問題だった。でもそれをどう語るかは、設計の問題だ。

次のプロットと、実機側のR2R2Rループへの接続を並行して進める。