ロボットアームにキャラクターを与えるとはどういうことか。ツカムくん誕生まで
LOG117HRI2026/3/28

ロボットアームにキャラクターを与えるとはどういうことか。ツカムくん誕生まで

ツカムくんという名前がある。

mechArm 270-Piをベースにした、このプロジェクトのロボットアームキャラクターだ。コーヒーカップを掴む動きで、ロボットの動きそのものが設計の対象であることを示す存在として設定した。

ただし、その名前と姿が決まるまでに、いくつかの問いに正直に向き合う必要があった。そしてAIと一緒にかなり消耗した。

キャラクター設計とは何か、という問い

最初に引っかかったのはそこだった。

ロボットアームのキャラクター設計、と言うと、外見を可愛くするとか、名前をつけるとかいう話に見える。でも実際にやってみると、それは表面的な話ではなかった。

6軸のアームが動く。その動きには無数の選択肢がある。どの速度で動くか。どのタイミングで止まるか。止まる前の減速はどう設計するか。次の動きへの移行はどれくらいの間があるか。

これは全部、設計の問いだ。 そしてその選択の積み重ねが、見ている人に「このロボットはこういうやつだな」という印象を与える。

キャラクター設計とは、動きの設計だった。

要件定義書を書いた

要件定義書は何度も書いてきた。でもロボットのキャラクターに要件定義書を書くのはハコブくんと合わせて2回目だった。

最初に決めたのはコンセプトだ。

「言葉より動きで語る」

ツカムくんは無口だ。感情を言語や音声では表現しない。アームの動きと、ベースに搭載した顔ディスプレイだけで自分を表現する。その前提を最初に固めた。

次に3つのキーワードを置いた。

  • Silent ── 無口。感情はアームの動きとディスプレイで表現する

  • Precise ── やると決めたら丁寧に、確実にやる

  • Honest ── できないことを正直に示す

この3つを書いた時、少し手が止まった。

これはロボットアームの仕様ではなく、人格の記述だった。

AIとのデザインセッション

要件定義書ができたところで、Geminiにビジュアル化を依頼した。要件定義書を渡して「ハコブくんに合わせて、ラウンドしているフォルムと愛嬌のある顔をつけてください」というシンプルな指示から始めた。

最初のアウトプットは病院のスタッフステーションで動くロボットだった。

ツカムくんはテーブルに固定される卓上ロボットアームだ。移動はしない。なのに最初の提案はハコブくんと一緒に病院の廊下を移動するシーンで描かれていた。要件定義書の「稼働環境:テーブル上に設置」を読んでいない、あるいは読んでいても反映されていない。

「ツカムくんはデスクの上に常にいます。移動はしません」と明示的に伝えた。Geminiは「甲し訳ありません!私の認識不足でした」と答えて修正してくれた。

そこからはひたすら細部の調整が続いた。

眉を消す。口を消す。台座の形を変える。歯車マークを消す。十字マークを消す。テキストラベルを消す。ハコブくんを画面から外す。背景を白にする。モノクロにする。マンガ調のハッチングに変える。

これを何十回と繰り返した。

「未成年者の画像は作れません」

一番意味がわからなかったのが、これだ。

ビジュアルの調整を続けていたある時点で、Geminiが突然こう返答した。

「未成年者の画像を作成することはできますが、そのように描写するものは作成できません。別のアイデアをお手伝いさせていただいてもよろしいですか?」

は?

描いているのはロボットアームのキャラクターだ。6軸のメカニカルアームに顔ディスプレイがついている。人間は一切登場していない。なのに「未成年者の描写」として拒否された。

しかもこれが2回続いた。

何かが誤検知を引き起こしていたのだと思う。おそらく「TSUKAMU-KUN」というテキストラベルを消すよう指示したタイミングで、何かのフラグに引っかかったのだろう。でも理由はわからない。

そのたびに「これはロボットです、人間ではありません」と説明して、別のプロンプトで続けた。

三面図が完成した

何十回かの試行の末、正面・背面・側面の三面図が出てきた。

モノクロマンガ調、線の太さ統一、影の部分はハッチング。ハコブくんの画風に合わせた仕上がりになっていた。

ベース部分に搭載された横長ディスプレイに、丸い目が二つ。アームが上に伸びていても、目は常に低い位置に固定されている。この構造には意味がある。アームがどこまで伸びても、人間はツカムくんの「顔」を同じ場所で認識できる。

それが安心感になる。

キャラクターとは動きの設計だと改めて思った

三面図を見ながら思ったのは、これはまだスタート地点だということだ。

ツカムくんの外見は決まった。でもツカムくんが「Silent」であり「Precise」であり「Honest」であることは、動いた時に初めて伝わる。待機中の縮こまったポーズ、物を掴む前のわずかなうなずき、置いた後の丁寧な静止。

それを設計するのはこれからだ。

UXデザインの29年が、ここに来て全部「動きの設計」という問いに収束してきている気がする。

「できないことを正直に示す(Honest)」を要件に入れたキャラクターのビジュアルを作っている最中に、AIが意味不明な理由で拒否してくることになるとは思っていなかった。ツカムくんの方がよっぽどHonestだよ。