ハコブくん薬剤搬送ロボットのUI設計と情報アーキテクチャ|Figmaによる病院現場HRI設計
LOG3HRI2025/12/12

ハコブくん薬剤搬送ロボットのUI設計と情報アーキテクチャ|Figmaによる病院現場HRI設計

デジタルUXをHRIへ橋渡しする

「愛されるロボット」をどう実現するか(LOG1)、そしてその裏側で「ロボット保守」のための情報設計をどう行うか(LOG2)を論じてきました。LOG3となる今回は、具体的なロボットである薬剤搬送ロボットを題材に、この2つの概念を統合し、実際のUI/UX設計に落とし込むプロセスを公開します。

物理的なロボット(HRI)の設計において、ロボティクスデザイナーが提供する最大の価値は、単に画面を美しくすることではありません。ロボットの走行や引き出しの開閉といった物理世界での操作と、タッチスクリーン上のデジタルインターフェースを繋ぐ、一貫したユーザー体験(UX)の設計がデザイナーの役割です。

病院現場の厳しい要件を満たしつつ、スタッフにとって使いやすいを実現するUI/UXの具体的な設計手法を解説します。

※薬剤搬送ロボットハコブくんは技術検証用の仮想設定です。 実用化目的ではなく、制御・UIデザイン・HRI(人間とロボットの相互作用)の本質を探求するコンセプトとして定義しています。

現場体験設計の土台:薬剤搬送ロボットの要件定義

使いやすさは現場の課題を深く理解することから始まります。薬剤搬送ロボットの設計は、病院スタッフの多忙さ、ミスの許されない環境、そして安全性という3つの要素をクリアしなければなりません。

まずは、設計の基盤となる要件定義スプレッドシートの内容をご紹介します。

ターゲットユーザーと利用シナリオ

ロボットの設計は、誰が、どこで、何のために使うのかという要件の定義から始まります。

ハードウェアと安全性の寸法要件

病院という物理的な環境で安全に共存するための、重要な寸法と安全要件です。これらはUIのレイアウトや操作高にも影響します。

ロボット本体のUI/HMIデザイン(デザイナーの役割)

ロボット導入後の理想的なタスクフロー

この要件に基づき、薬剤師や看護師がロボットと関わる際のタスクフローを設計します。

  • 投入プロセス (薬剤師):ID認証、搭載、目的地指定 → UI設計の焦点: 迅速な認証とエラー防止。

  • 搬送プロセス (ロボット):自動走行 → UI設計の焦点: 走行ステータスの明確な表示(顔UIや側面LED)。

  • 受け取りプロセス (看護師):ID認証、引き出し解錠、薬剤取り出し → UI設計の焦点: 確実な認証と人間工学的な操作性(取り出し高さ約 750mmの活用)。

要件定義を元にした薬剤搬送ロボットのイメージボード

薬剤搬送ロボット-イメージボード

具体的UI設計:安全性と親和性の両立

多忙な現場において、スタッフが「迷わず」「確実に」操作できることがUI設計の生命線です。

認証画面:セキュリティとスピードの両立

  • 原則: 薬剤という重要物を扱うため、認証の確実性は必須ですが、多忙なスタッフの時間を奪ってはいけません。

  • 設計案: 生体認証(指紋・顔)またはICカードを第一とし、パスワード入力の手間を最小化。万が一に備え、手袋をしたままでも押しやすい大サイズのボタンと高コントラストの配色を採用します。

目的地選択画面:直感的な情報アーキテクチャ

  • 原則: 病院内の複雑な構造を、デジタル的に直感的に理解させる情報アーキテクチャが必要です。

  • 設計案: 病棟や病室をプルダウンや文字入力で探させるのではなく、視覚的なフロアマップや簡略化された階層構造で選択できるようにします。よく使う目的地を「お気に入り」として登録することで、操作のショートカットを提供します。

薬剤受け渡し確認画面:確実な誘導

  • 原則: 誤投薬防止のため、「誰が、何を」受け取るのかを確実に確認させる仕組みが重要です。

  • HRI連携: 受け渡し確認後、画面操作(解錠)と同時に、引き出し内の該当エリアを特定の色(例:緑)で発光させて誘導します。これにより、スタッフは視覚的に間違いなく薬剤を取り出すことができ、取り出し後の施錠(完了)操作も明確に促します。

情報アーキテクチャの提案:ロボットの状態遷移とフィードバック

愛されるロボットであるためには、ロボットのふるまいをUIと連携させ、スタッフとの間に信頼できる対話を成立させる必要があります。

ステータスLEDと顔UIの連携

  • 顔UI(愛される要素):「笑顔」「待機中」 「困惑」「障害物検出」「目の点滅 → 通信中」など、感情表現を通して、遠くにいるスタッフにも状況を伝達します。

  • 側面LED(機能的要素):  緑 → 正常稼働/開錠可能、赤 → エラー/施錠中、青 → 走行中など、緊急度や機能の状態を瞬時に伝えられる色設計を施します。

エラー時の適切な会話

  • エラー発生時、単なるエラーコード(例: 通信が途絶しました(コード404))ではなく、現場スタッフが取るべき行動を明確に促すメッセージを設計します。

  • 例: 「エレベーターとの連携に失敗しました。ナースステーションのシステム管理者に連絡してください」といった具体的な指示を出すことで、スタッフは無駄な時間を使うことなく、次のアクションに移れます。

まとめ

Web/UIデザイナーの持つタスクフロー分析や情報アーキテクチャのスキルは、ロボットの使いやすさ(HMI)と運用しやすさの両面で不可欠です。本記事で定義したUI設計は、スタッフの心理的負担と作業ミスを軽減し、最終的に病院全体の業務効率向上に繋がります。

UIデザインは、単なる画面のデザインではなく、現場のタスクフローとロボットの物理的な振る舞い全体を設計することなのです。