AI外観検査は撮り方で決まる ― 照明の設計と検査員の限度見本から考える
製造ラインの外観検査を扱った動画を見た。株式会社TOMOMI RESEARCHが公開している「【AI外観検査】AIは変えず、撮り方だけ変えた — 人手確認が約8割減った比較実験|FORESIGHT STEREO」という約18分の解説動画で、AIの判定モデルには手を入れず、カメラと照明の撮り方を変えただけで、人が目で再確認する件数が約8割減ったという内容だった。
外観検査は、完成した部品や製品の表面にキズ・打痕・汚れがないかを見て、良品と不良品を分ける工程を指す。人が目で見る目視検査から、カメラとAIによる自動判定への置き換えが進んでいる領域でもある。
動画のスライドを見ながら Claude と対話し、「撮り方を変えると何が変わるのか」「なぜAIだけでは足りないのか」「人が検査していた頃は何を基準にしていたのか」を順に確かめていった。その過程を整理する。
FORESIGHT STEREOは光の向きを変えて複数枚撮り、色と凹凸を別々の画像に分けている
一枚の画像からいろんな方式で情報を取得していたと思うけど、それらを整理して教えてくれますか?
— この技術は、何枚の写真から、何を取り出しているのか。
最初の認識は「1枚の画像から複数の情報を取り出している」だったが、実際は違った。カメラと検査対象物を固定したまま、照明を1灯ずつ点けて複数枚を撮る。スライドでは4方向の照明(L1〜L4)が描かれていた。撮影は搬送の途中で1回に済むため、スライドには「工程もステーションも増えない」と書かれている。
同じ場所でも、左から光を当てれば左向きの斜面が明るくなり、右から当てれば右向きの斜面が明るくなる。この明るさの変わり方を画素ごとに計算すると、その点の面がどちらを向いているか(法線)と、光の当て方に関係なくその点が持っている色の濃さ(アルベド)が分かる。この手法をフォトメトリックステレオ(照度差ステレオ:光の向きを変えて撮った複数枚から、面の向きと色を計算で分ける手法)と呼ぶ。
計算の結果、通常の写真では混ざっていた情報が、次の4種類の画像に分かれる。
画像 | 写るもの | 消えるもの | 見つけられるもの |
|---|---|---|---|
通常画像(従来の照明) | 色・模様・凹凸・反射が全部混ざった状態 | なし | 比較の基準 |
2D Texture(アルベド) | 色と模様だけ | 陰影と凹凸 | 汚れ、変色、印字 |
3D Surface(高さ・曲率) | 凹凸だけ | 色・模様・反射 | キズ、打痕、ヒケ(樹脂や金属が固まるときの縮みでできる浅いへこみ) |
Surface Normal(法線マップ) | 面の向き(色で表示) | 色・模様 | 凹凸の向き、加工痕とキズの区別 |
分けた画像のうち、凹凸の画像を「良品学習」のAIに入力する。良品学習は、不良品を集めず良品だけを学習させ、良品の範囲から外れたものを異常として検出する方式を指す。つまりAIが担当するのは最後の判定だけで、その手前の撮影と計算で、AIが判定しやすい材料を作っている。
照明で欠陥を見せる手法は、AI導入より前から画像検査の常識だった
AIは変えず、撮り方だけ変えた
これってAI導入前からあることじゃないの?
— 動画の主張は、技術として新しいのか。
技術としては新しくない。画像検査の業界には「照明で結果の大半が決まる」という古い常識がある。AI以前の検査装置は、明るさの境目を数値で切り分けたり、輪郭を抽出したりする、人間が書いたルールで判定していた。ルールで判定できるように、照明の当て方で欠陥を見える状態にすることが、設計の中心だった。
フォトメトリックステレオ自体も、1980年にWoodhamが発表した論文が起点で、40年以上の歴史がある。多方向の照明から形状の画像を作る仕組みは、キーエンスのLumiTraxのように、AIが普及する前から検査装置として販売されている。
それでも「AIは変えず、撮り方だけ変えた」が新しい話として受け取られるのは、ディープラーニングの登場で逆向きの期待が広がったからだと考えられる。照明が多少雑でも、大量のデータで学習させればAIが吸収してくれる、精度が出なければモデルを変えるかデータを増やせばいい、という考え方で導入を進め、判定が分かれる品物が残って結局人が再確認する、という現場が増えた。動画のタイトルは、その進め方への反論として組まれている。
実質的に新しい部分があるとすれば組み合わせにある。旧来は照明で欠陥を見やすくし、人間が書いたルールで判定していた。今回は照明で色と凹凸を分け、良品学習のAIで判定する。ルールでは対応できなかった未知の不良をAIが拾い、AIの弱点である良品のばらつきを照明で小さくする、という補い合いになっている。
1枚の写真では、汚れと凹みを区別できない
「AIが来て、照明設計という古い知恵が一度忘れられ、また必要になった」
これってAIの判定だけではなぜできないのですか?
— AIがどれだけ賢くなっても、1枚の写真から凹凸を読めないのはなぜか。
写真の1画素の明るさは、その点の色の濃さ(反射率)、面の向き、光の向きの3つを掛け合わせて決まる。1枚の写真から得られる値は「明るさ」の1つだけなので、そこから色の濃さと面の向きを別々に取り出すことはできない。掛け算の答えが12だと分かっても、2×6なのか3×4なのかが決まらないのと同じ状態になる。画像の中の暗い点が、黒い汚れなのか、光が当たらない向きに傾いた凹みなのかを、1枚の写真だけでは判断する材料がない。
光の向きを変えて3枚以上撮ると、同じ画素について式が3本以上になり、色の濃さと面の向きを解けるようになる。照明を変えて撮ることは、式の本数を増やすことにあたる。
光沢のある表面ではさらに条件が悪くなる。黒いエンブレムやシリコンウェハのような鏡に近い面は、反射で画素が真っ白か真っ黒に張り付き、キズがあってもなくても同じ値になる。記録されていない情報は、AIの性能を上げても取り出せない。
1枚の写真から凹凸を推定するAIの研究もあるが、それは「普通の物体はだいたいこういう形をしている」という過去の例からの推測になる。外観検査で見つけたいのは普通ではない形なので、推測で補うAIは、珍しい小さなキズを普通の形として塗りつぶしてしまう。検査に必要なのは推測ではなく測定になる。
データを増やして押し切る方法にも限界がある。反射やロット差まで含めて良品を集めるほど、AIが「良品」とみなす範囲が広がり、小さな不良がその範囲に入って区別できなくなる。動画のスライドでは、通常の撮り方では良品と不良品の異常スコア(良品の範囲からどれだけ離れているかを表す数値)の分布が重なり、どこに合否の線を引いても見逃しか誤検出が残る様子が示されていた。撮り方を変えると分布が二つの山に分かれ、線1本で判定できるようになる。人手確認が約8割減ったのは、この重なりが小さくなった結果と読める。
目視検査員は、部品を光にかざして傾けながら凹凸を読んでいた
人が検査していた頃はその辺りの基準はどんな感じだったの?
— 人の目視検査には、撮り方にあたる基準があったのか。
あった。多くの現場では検査基準書で、照明の明るさ、目と部品の距離、見る角度、1面あたりの時間まで決めていた。お客様の目に触れる面は厳しく、見えない面は緩く、という面ごとの区分もある。見る条件が変われば見えるものが変わる、という認識は目視の時代からあった。
熟練した検査員は、光沢のある部品を手に取り、光にかざして角度を変えながら見る。映り込んだ光の帯を面の上で動かすと、打痕やヒケの部分だけ帯が歪む。これは光と部品の角度を変え、陰影の変わり方から形を読む動作で、フォトメトリックステレオと同じ原理になっている。
自動化の際にカメラと照明を固定し、1枚だけ撮る方式にしたことで、人が手でやっていたこの動作が抜け落ちた。FORESIGHT STEREOは、その動作を照明の切り替えで機械に戻したものとして見ることができる。
最終的な合否は、多くの場合「限度見本」で決めていた。限度見本は、ここまでは良品、ここからは不良という境界を、実物のサンプルで示したものを指す。キズの長さなどの数値基準があっても、最後は見本と見比べて判断し、迷った品物は班長や品質保証の担当者に回していた。
項目 | 人の目視検査 | 初期のAI検査 |
|---|---|---|
見る条件 | 部品を傾けて、複数の角度から見る | カメラ固定・照明固定で1枚撮る |
判定の基準 | 限度見本(実物のサンプル)と人の感覚 | 学習データと数値のしきい値 |
迷う品物の扱い | 人が相談して決める | 異常スコアの重なりとして残る |
弱点 | 人ごと・時間帯ごとのばらつき | 撮り方で情報が欠けると判定できない |
AI導入で失われたのは、傾けて見るという撮り方と、限度見本を使った判定の運用の二つだった。前者を取り戻したのが今回の技術にあたる。後者、つまり限度見本の境界をどうやって学習データとしきい値に置き換えるかは、今もAI外観検査で詰まりやすい工程として残っている。
AI導入で撮り方の設計が抜け落ちたのは、担当する人が入れ替わったから
AI導入で簡単に画像判定できると思い込んでしまったのね。
— 思い込みは、どこから生まれたのか。
背景は三つ考えられる。一つ目は、一般的な画像認識の成功体験。猫と犬を見分けるような画像認識は、人が見て分かるように撮られた写真を前提にしている。外観検査の欠陥は、そもそも写真に写らないことが多い。同じ「画像判定」でも条件が違った。
二つ目は売り方。「不良品データは不要」「カメラを置くだけ」という打ち出しが多く、撮影条件を設計する工数が見えにくかった。三つ目は試験導入(PoC)の段階。少数のサンプルを条件の良い状態で撮ると精度が出るが、ラインに入れるとロットごとの差、反射のムラ、置き位置のずれで崩れる。「見逃しゼロ・過検出ゼロ」を目標にして、見逃し1%・過検出3%という結果で導入が止まった、という事例も紹介されている。人の目視検査もゼロではないのに、AIにだけゼロを求める構造になっていた。
一番大きいのは、担当する人の入れ替わりだと考えている。照明設計のノウハウは、FA機器(工場の自動化機器)メーカーや画像処理のエンジニアが持っていた。AI検査の多くはソフトウェア側の会社が主導したため、照明で結果が決まるという常識を持つ人がプロジェクトにいないことがあった。
AIの導入を行いもっと最適化していけば、より不良と良品の見分けができるようになってくるということでいいですか?
これからもAIの最適化だけでは画像検査がうまくいくことはないということ?少なくとも今の技術では。
AIのモデルだけを改良しても、入力された写真に情報がなければ精度には上限がある。改善するには、欠陥が写る条件を作る撮り方、写ったものから判定するAI、何を不良とするかを決める基準の三つを一緒に動かす必要がある。
ただし、すべての外観検査が難しいわけではない。部品の欠品や向き違い、印字の誤り、色の異常のように、欠陥が普通の写真にはっきり写る検査は、AIの改良だけで精度が上がる。難しいのは、欠陥が凹凸として現れ、表面が光ったり模様があったりする領域に限られる。
検査の種類 | AIの改良だけで精度が上がるか |
|---|---|
欠陥が普通の写真に写る(欠品、印字、色) | 上がる |
欠陥が写真に写らない(光沢面の微細なキズ、汚れと凹みの混在) | 原理的に上がらない |
AIが照明の角度や撮る枚数まで決めるようになった場合 | 上がる余地がある。ただし撮り方の設計をAIが担当するようになるだけで、撮り方が不要になるわけではない |
限度見本の境界ぎりぎりの品物をどちらに分けるかは、技術ではなく、お客様の要求、コスト、歩留まり(良品として出荷できる割合)の兼ね合いで決まる。現実的な目標は、判定が分かれる品物を減らし、人が見るべきものだけを人に回すことになる。動画の成果が「ゼロ」ではなく「約8割減」だった点は、その目標と合っている。
目視検査員の時給は軽作業と同じ水準で、判断の価値が値段に入っていなかった
外観検査する人の給与って何か特別だったりする?
— 品質を最後に確かめる仕事は、どう値付けされてきたのか。
求人を調べると、特別に高いわけではなく、一般的な工場の軽作業に近い水準だった。ある目視検査の求人では、日中が時給1100円から、夕方と早朝が1375円から、深夜が1650円からとなっていて、上がるのは夜間の手当の分だけで、見る技能への上乗せは読み取れない。派遣や未経験可の募集も多く、人材会社も「工程が決まっていて未経験から始めやすい仕事」として紹介している。
例外は医薬品で、注射薬の小瓶を1本ずつ手に取り、決められた秒数と動作で異物を探す検査では、月給27万円台の求人もあった。異物の見逃しが人の体に直接影響するため、検査員の訓練と認定が厳しい。
これまでの話と並べると、役割と値付けが合っていない。熟練した検査員は、光にかざして形を読み、限度見本で境界を判断している。その判断は言葉になっていない基準そのものだが、処遇は誰でもできる作業として決められている。そのため人が定着しにくく、ベテランが辞めると、限度見本をどう見ていたかという感覚も一緒に失われる。人手不足と品質のばらつきが自動化を急ぐ理由になり、その自動化は、言葉になっていない基準がデータになっていないせいで詰まる。この循環が見えてきた。
検査員の判断の根拠を言葉にしないまま自動化すると、技術は残らない
暗黙知があるうちに自動化、AI化、ロボット化しないと技術が消えるね。
— 自動化すれば、ベテランの技術は残るのか。
ベテランの判定結果(良品か不良か)だけをAIに学習させると、なぜそう判断したかは残らない。新しい製品や新しい種類の不良が出たとき、判断できる人がいない。AIの判定がずれても、何が正しいかを分かる人がいない。結果だけが機械に移り、判断する力は消える。
残す必要があるのは、判断の根拠のほうになる。
どの角度で、どの光に当てて、面のどこを見ているか
この限度見本がなぜ良品で、あの見本がなぜ不良なのか
迷った品物に、何を根拠に結論を出したか
お客様がどの面のどんなキズを気にするか
順番は、自動化の前に言葉にすることになる。まずベテランの見方と判断を記録して言葉とデータにし、それを照明の条件と判定の基準に書き換え、機械とAIに任せる。任せたあとも、判定が分かれる品物はベテランが判断し、その記録を学習データに戻す。FORESIGHT STEREOは、このうち「傾けて見る」という見方を、照明の条件に書き換えた例にあたる。
私はアパレルの量産で、遠く離れた工場がその通りに作れる仕様書を書く仕事を14年続けてきた。仕様書を書くことは、現場の人の頭の中にある「このくらいなら大丈夫」を、別の場所の別の人が再現できる数字と言葉に置き換える作業だった。AIの外観検査で詰まっているのも、この置き換えの工程だと考えている。
AIが判定できるのは、照明と基準がすでに写し取ったものだけ
外観検査は、写真を撮って良し悪しを決めるだけの作業に見えるが、実際には三つの領域が重なっている。欠陥が写るかどうかを決める光と表面の性質、何を不良とするかを決めるお客様の要求とコストの兼ね合い、ロットの差や判定が分かれる品物を誰がどう扱うかという現場の運用。AIが担当しているのは、このうち判定の一部だけで、残りは長く現場の検査員が経験で支えてきた。
動画の「AIは変えず、撮り方だけ変えた」は、その支えていた部分の一つを、照明の切り替えとして機械に移した事例だった。同じ構造は、ロボットの把持や組立のように、カメラで見て手を動かす作業全般にもある。
外観検査のAIが判定できるのは、照明と基準がすでに写し取ったものだけだった。
参考
株式会社TOMOMI RESEARCH「【AI外観検査】AIは変えず、撮り方だけ変えた — 人手確認が約8割減った比較実験|FORESIGHT STEREO」(YouTube)https://www.youtube.com/watch?v=9N-BkyLMkPA
オムロン制御機器「人の感覚に頼った検査を自動化し、不良流出ゼロへ」https://www.fa.omron.co.jp/solution/case/our_003/
ヴィスコ・テクノロジーズ「外観検査の自動化~失敗しないためのポイントや事例~」https://www.visco-tech.com/newspaper/vol11/detail07/
キュレコ「PoCで終わるAI外観検査、5つの落とし穴」https://cureco.co.jp/blog/column/ai-inspection-poc-pitfalls/
テンプスタッフ「検査・検品の派遣の仕事内容や給与、必要なスキル」https://www.tempstaff.co.jp/career/occupation/light-work/inspection.html
