「わかった顔」を疑う設計
■ 正確な言葉は、伝わる言葉ではない
小芝研修医の説明に誤りは一つもありません。Stage II、Kaplan-Meier曲線——医療で最も精度の高い語彙です。しかし専門用語は情報を圧縮する道具であり、その圧縮を解ける相手にしか届かない。中村さんが受け取ったのは内容ではなく「難しい話をされている」という手触りだけでした。
■「は、はあ…」は計上されない失敗信号
中村さんは頷き、質問しませんでした。説明する側から見れば、この診察は滞りなく完了しています。理解できていない側が沈黙で場を成立させるため、断絶は記録に残らない。危険なのは誤解ではなく、誤解が発覚しないまま合意が形成されることです。
■ 結論:説明の成否は受け手の中で決まる
ハコブくんは新しい情報を足していません。同じ内容を、進行度は位置で、選択肢は分岐で、見通しは幅で——視覚構造に置き換えただけです。この変換は語彙の熟練度に依存しない。「次から僕も図で説明します」は敗北宣言ではなく、伝達チャンネルを相手に合わせて選び直す設計判断でした。
正しく言うことと、伝わるように言うことは、別の技術である。
